飲食店の新規オープンで必要な届出は?手続き方法や補助金を解説

飲食店を新規オープンするにあたって必要な届出は多く、なにから始めたらよいのか迷ってしまう方も多いでしょう。
適切な手続きを踏まなければ、不備があるとして開業の許可が得られない可能性があります。
この記事では、保健所や税務署、消防署など各機関へ必要な届出から手続き方法、資金調達や活用できる補助金制度まで、飲食店の新規オープン前に知っておきたい情報を解説します。
飲食店の新規オープンに必要な届出

飲食店を新規オープンする前には、以下のようにいくつかの届出が必要です。
届出先 | 届出内容 |
保健所 | ・飲食店営業許可 ・食品衛生責任者の設置届 |
税務署 | ・個人事業主:個人事業の開業届出 ・法人:新設法人の届出 ・所得税の青色申告承認申請書 |
消防署 | ・防火対象物使用開始届出書 ・火を使用する設備等の設置届出書 ・防火管理者選任届出書、消防計画作成届出書 |
警察署 | ・深夜における酒類提供飲食店営業届出 ・風俗営業等の営業申請(届出)手続 |
労働基準監督署 | 労災保険 ・保険関係成立届 ・概算保険料申告書 雇用保険 ・雇用保険適用事業所設置届 ・雇用保険被保険者資格取得届 |
社会保険事務所 | 社会保険 ・新規適用届か、任意適用申請書 ・被保険者資格取得届 |
これらの届出は、開業前に済ませておくべき重要な手続きです。
対象や期限もそれぞれ異なるため、以下で詳しく解説します。
保健所|営業許可、食品衛生責任者の設置届
飲食店を開業するには、保健所から必ず営業許可を取得しなければなりません。
許可なく営業すると、罰則の対象となるため注意が必要です。
まずは、保健所へ相談に行き、開業する施設の構造設備について説明を受けましょう。
その後、必要書類をそろえて申請をおこない、保健所の職員による施設検査を受けます。
検査に合格すれば、晴れて営業許可証が交付されます。
営業許可の申請に必要な書類は、以下のとおりです。
書類名 | 詳細 |
飲食店営業許可申請書 | 申請者の氏名や住所、店舗情報などを記載 ※法人番号を記載しない場合、登記事項証明書を添付 |
施設の構造設備の概要を示す図面 | 厨房や客席、トイレなどの配置や広さを示す図面 |
食品衛生責任者の資格を証明する書類 | 食品衛生責任者手帳など |
水質検査成績書 | 水道水や専用水道、簡易専用水道以外を使用する場合に必要 |
許可申請手数料 | 詳細は申請先の保健所へ |
書類は、施設工事完成予定日の約10日前までに提出が必要です。
なお、飲食店では衛生的な管理運営のために、食品衛生責任者を必ず選任しなければなりません。
食品衛生責任者になれる人は、以下のとおりです。
- 栄養士・調理師・製菓衛生師・食鳥処理衛生管理者・船舶料理士と、畜場法に規定する衛生管理責任者/作業衛生責任者の資格保持者
- 食品衛生管理者、または食品衛生監視員となれる資格を有する者
- 食品衛生責任者の資格取得のための養成講習会修了者
食品衛生責任者の養成講習会は、各都道府県で開催されています。
お住まいの地域によっては、対面の集合型講習会のほか、オンラインで講義動画の視聴とテストを受けるeラーニングも選択可能です。
税務署|個人事業の開業届出か新設法人の届出、所得税の青色申告承認申請書
税務署に必要な届出は、以下のとおりです。
対象 | 届出 | 期限 |
個人事業主 | 個人事業の開業届出 | 事業の開始等の事実があった日から1カ月以内 |
法人 | ・法人設立届出書(定款、寄附行為、規則または規約等の写しを添付) ・源泉所得税関係の届出書 ・消費税関係の届出書 | 設立登記の日以後2カ月以内 |
青色申告を利用したい場合 | 所得税の青色申告承認申請書 | ・個人:青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで。もしくは、その年の1月16日以後、新たに事業を開始または不動産の貸付けをした場合には、その事業開始等の日(非居住者の場合には事業を国内において開始した日)から2カ月以内 ・法人:設立第1期目から青色申告の承認を受けたいときは、設立の日以後3カ月を経過した日と設立第1期の事業年度終了の日のうち、いずれか早い日の前日まで |
青色申告は、白色申告に比べて税金の計算方法が複雑ですが、最大65万円の所得税控除を受けられます。
また、必要な手続きのうえ青色事業専従者給与を必要経費に算入できたり、純損失の繰越しと繰戻しが可能になったりします。
なお、法人の場合には、必要に応じて以下の書類の提出も必要です。
必要時に提出する書類 | 期限 |
棚卸資産の評価方法の届出書 | 設立第1期の事業年度の確定申告書の提出期限まで |
減価償却資産の償却方法の届出書 | 設立第1期の事業年度の確定申告書の提出期限まで |
有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書 | 有価証券を取得した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで |
定款の定め等による申告期限の延長の特例の申請書 | 適用を受けようとする事業年度終了日まで |
事前確定届出給与に関する届出書(付表1、付表2) | 設立の日以後2か月を経過する日まで |
詳しくは、国税庁の「新設法人の届出書類」もご確認ください。
消防署|防火対象物使用開始届出書、防火管理者選任届出書など
飲食店を新規オープンするにあたって、消防署への届出は欠かせません。
火災は店舗経営を揺るがす大きなリスクとなるため、安全対策は万全を期す必要があります。
おもな消防署への届出は、以下の3つです。
届出 | 期限 |
防火対象物使用開始届出書 | 使用開始の7日前まで |
火を使用する設備等の設置届出書 | 火を使用する設備を設置する7日目まで ※届出後には原則、消防署の検査を受ける |
防火管理者選任届出書、消防計画作成届出書 | 営業開始まで |
防火対象物使用開始届出書は、建物の用途変更や新規開業時だけでなく、レイアウト変更などで避難経路や収容人数に影響がある場合にも必要となる場合があります。
火を使用する設備等の設置届出書は、厨房機器をはじめ、火を使用する設備が多数設置される飲食店に必須の手続きです。
対象設備には、コンロ・オーブン・フライヤーなどの調理機器のほか、ボイラーや温風暖房機なども含まれます。
防火管理者は、収容人数が30人以上の飲食店で選任が義務付けられています。
管理監督的な地位にあり、防火管理講習の課程修了等の防火管理に関する知識を有していることが条件です。
選任された人は、消防計画を作成し、届け出る義務があります。
警察署|深夜における酒類提供飲食店営業届出、風俗営業等の営業申請(届出)手続
午前0時から午前6時までの間に酒類を提供する飲食店を新規オープンする場合、所轄の警察署に「深夜における酒類提供飲食店営業届出」をおこなう必要があります。
届出が必要となるのは、営業開始予定日の10日前までです。
ただし、都道府県条例で営業を禁止している地域では、当該地域内で新規オープンすることはできません。
まずは、該当地域の条例を確認することが大切です。
風俗営業等の営業申請(届出)手続は、キャバレーや待合、料理店、カフェ、その他設備を設けて顧客の接待をして、遊興または飲食をさせるような営業をする場合に必要です。
こちらは営業地域の規制や営業時間の制限などもあるため、確認しておきましょう。
労働基準監督署|労災保険、雇用保険の手続き
従業員を雇用して飲食店を新規オープンする場合、労災保険や雇用保険の手続きが必要です。
労災保険とは、業務上の事由や通勤による雇用者の負傷・疾病・障害または死亡に対して、労働者やその遺族に必要な保険給付をおこなう制度です。
手続きを済ませておくと、労災事故が発生した場合に保険給付がおこなわれ、事業主は労働基準法上の補償責任を免れます。
ただし、1~3日目の休業補償については給付されないため、労働基準法で定める平均賃金の60%を直接労働者に支払う必要があります。
労災保険や雇用保険の届出先は、労働基準監督署です。
届出 | 期限 |
保険関係成立届(労災保険) | 雇用した日から10日以内 |
概算保険料申告書(労災保険) ※所轄の都道府県労働局か日本銀行でも可 | 雇用した日から50日以内 |
雇用保険適用事業所設置届(雇用保険) | 事業所を設置した日の翌日から起算して10日以内 |
雇用保険被保険者資格取得届(雇用保険) | 雇用保険の資格取得年月日の属する月の翌月10日以内 |
雇用保険の手続きをするときは、ほかにも以下が必要です。
- 労働保険関係成立届の事業主控
- 事業所の実在、事業の種類、事業開始年月日、事業経営の状況、ほかの社会保険の加入状況を証明することができる書類
- 労働者の雇用実態、賃金の支払いの状況などを証明できる書類
詳細な書類については、労働基準監督署に確認しましょう。
社会保険事務所|社会保険の手続き
飲食店の新規オープンで従業員を雇用する場合には、社会保険事務所で社会保険(健康保険や厚生年金保険)の手続きも必要です。
おもに必要な届出は、以下のとおりです。
届出 | 期限 |
新規適用届(義務の場合) | 事実発生から5日以内 |
任意適用申請書(任意の場合) | 従業員の2分の1の同意後、速やかに |
被保険者資格取得届 | 事実発生から5日以内 |
法人で常時従業員を使用する、もしくは常時5人以上の従業員が働いている事務所などは、厚生年金保険と健康保険の加入が法律で義務づけられています。
それ以外であっても、一定の要件を満たした場合は、厚生年金などへ加入可能です。
飲食店の新規オープン前に知っておきたい資金調達と補助金制度

飲食店の新規オープンに向けて自己資金だけでは不足する場合、融資制度や補助金・助成金制度を活用する方法があります。
資金調達方法の例を紹介します。
日本政策金融公庫の融資制度
飲食店の新規オープンに必要な資金を調達する方法に、日本政策金融公庫の融資制度があります。
対象は飲食店を始める人や事業開始後およそ7年以内の人で、条件があえば設備資金や運転資金の融資が受けられます。
ただし、融資は適正な事業計画を策定し、当該計画を遂行する能力が十分あることが前提でおこなわれるため、綿密な事業計画を立てる必要があります。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金とは、小規模事業者がおこなう販路開拓などの取り組みを支援する補助金です。
宿泊・娯楽業を除く、商業・サービス業では、常時使用する従業員の数が5人以下であれば「小規模事業者」となります。
申請が通ると、通常枠では補助率が3分の2、補助上限が50万円、インボイス特例が50万円適用されます。
詳しくは、全国商工会連合会の「小規模事業者持続化補助金」をご覧ください。
各自治体の補助金・助成金
自治体によっては、飲食店の新規オープン時に活用できる補助金・助成金制度が用意されている場合もあります。
たとえば、横浜市では「商店街空き店舗に関する助成」といった助成金制度があり、補助率は2分の1、補助限度額は30万~50万円です。
新規オープンにあたってこのような制度がないか、まずは各自治体に確認してみるとよいでしょう。
飲食店の新規オープン前には忘れずに手続きをしておこう

飲食店の新規オープン前には、保健所や税務署、消防署などに適切な手続きをおこなわなければなりません。
必要な手続きを踏まなければ、不備があるとして開店自体できなくなる可能性があります。
この記事を参考に、必要な手続きをまとめておくとよいでしょう。
飲食店の開業にあたって準備することについては、以下の記事も参考にしてください。