インボイス制度で簡易課税制度に及ぼす影響は?「一般課税」と「簡易課税」の選び方を紹介
インボイス制度で「簡易課税事業者」になった場合、消費税の納税額を決められた割合で計算ができます。
また、税率を区別する手間が省けるため、事務業務の負担軽減につながります。
この記事では「簡易課税制度に及ぼす影響や一般課税と簡易課税の選び方」を紹介します。
また、簡易課税制度の手続き方法まで解説しているため、ぜひ最後までご覧ください。
簡易課税制度とは
簡易課税制度により、売上に係る消費税額から、消費税の納税額を算出が可能です。
主に、事務における負担軽減が目的のため、簡易課税事業者は任意で選べます。
課税事業者は「一般課税方式」となり、仕入の消費税額を以下のように区分します。
- 課税売上のみ
- 非課税売上のみ
- 課税・非課税売上の両方
それぞれ区分することで、仕入にかかる消費税額を計算できるため、預かり消費税額との差額で納税額を算出が可能です。
一方で、簡易課税制度は、簡易課税方式で「消費税額」と「みなし仕入率」を掛けあわせて仕入税額を計算すると、納税額の算出ができます。
簡易課税制度の対象事業者
簡易課税制度の対象事業者は、中小事業者向けの消費税の特例制度のため絞られます。
簡易課税制度における対象条件は、以下の通りです。
- 基準期間となる2年前の「課税売上高が5,000万円以下」である
- 「消費税簡易課税制度選択届出書」を前事業年度の末日までに提出済みである
もし、簡易課税制度の適用を止める際は、前事業年度の末日を期限として「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の提出が必要です。
納税義務のない免税事業者
課税期間にかかる基準期間に「課税売上高が1,000万円に満たない場合」は、納税義務のない免税事業者となります。
一方で、特定期間の「課税売上高が1,000万円を超える場合」は、課税事業者です。
基準期間、特定期間は、それぞれ以下の通りです。
- 法人:課税期間の前々事業年度、前事業年度から6カ月
- 個人事業主:課税期間の前々年、前年の1〜6月まで
インボイス制度による簡易課税制度へ及ぼす影響は?
インボイス制度による簡易課税制度へ及ぼす影響は、とくにありません。
納税額は「売上の消費税額」と「みなし仕入率」により算出するため、請求書の証憑がありません。
また、インボイス制度を導入後も、簡易課税制度における内容と要件は引継できます。
加えて、簡易課税制度を適用している事業者は、インボイス制度を導入後も免税事業者との取引が可能です。
そして、取引先が課税事業者の場合、適格請求書交付を依頼する必要はありません。
そのため、事務や経理作業の負担が増加する場合におすすめの制度です。
インボイス制度後に簡易課税事業者が注意するべきポイント3つ
インボイス制度において簡易課税事業者が注意するべきポイントを、以下3つ紹介します。
- 取引先の状況に応じて「適格請求書発行事業者への登録」が必要になる
- 最低でも2年間継続が必要になる
- 負担が減少するとは限らない
取引先の状況に応じて「適格請求書発行事業者への登録」が必要になる
取引先の状況に応じて、「適格請求書発行事業者への登録」が必要になります。
たとえば、簡易課税事業者が適格請求書を必要ない場合でも、インボイス制度導入で仕入税額控除を適用したい取引先があると、適格請求書の交付を求められるケースがあります。
加えて、適格請求書発行事業者ではないと適格請求書を交付できないため、取引の見直しや値下げにつながるケースがあります。
また、適格請求書発行事業者へ登録している状態でも、簡易課税制度における適用の変更はされません。
適格請求書発行事業者への登録は任意ですが、取引先より要望が増加した場合は、取引先の意向をヒアリングし、対応方法を決めるのがおすすめです。
最低でも2年間継続が必要になる
簡易課税制度を選んだ場合、最低でも2年間の適用の継続が条件のため、今後の事業計画を見越したうえで適用の有無を選びましょう。
課税売上にかかる消費税より、仕入にかかる消費税が多い場合は、消費税の還付が可能な一般課税と異なり、簡易課税制度は対象外です。
そのため、多額の設備投資を予定しているなど、仕入れの増加がある場合は一般課税を選ぶ方が良いケースもあります。
負担が減少するとは限らない
複数の事業をおこなっている企業では、簡易課税制度で経理の負担が必ず減るとは限らないため注意しましょう。
複数の事業を展開している場合、収入ごとの消費税を業種で区分して計算しないと正確な消費税の納税額を計算できません。
事業数に応じて経理作業の負担となるため、安易な選択をするのは避けましょう。
簡易課税制度の手続き方法
届出用紙に必要事項を記入し、簡易課税制度の手続きをします。
届出用紙の提出方法は、以下の通りです。
- 郵送
- 窓口持参
- e-Tax
届出は、翌課税期間(提出日を含む)から適用となり、希望する適用の課税期間がある場合は、制度を適用する前日までに提出が必須です。
課税期間から適用したい開業したての免税事業者の場合は、課税期間の末日までの提出が必要になります。
そして、簡易課税事業者の基準期間の課税売上高が「5,000万円より下回る場合」は、簡易課税方式で納税額を計算が可能です。
また、課税期間の開始までに「簡易課税制度選択不適用届出書」の提出をした場合は、本則課税への切り替えが可能です。
ただし、2年間は本則課税への切り替えができなくなるため事前に把握しておきましょう。
インボイス制度では「一般課税」と「簡易課税」のどちらを選ぶべきか?
インボイス制度の「一般課税」と「簡易課税」の選び方を紹介します。
- 仕入額が少ないなら「簡易課税」を選択
- 投資額が大きいなら「一般課税」を選択
仕入額が少ないなら「簡易課税」を選択
仕入額が少ない業種の場合は、「簡易課税」がおすすめです。
たとえば、仕入率が低いとされる業種は以下の通りです。
- IT企業
- コンサルティング業
- サービス業
サービス業は人件費がかかりますが、消費税の納税額は少ないケースになります。
投資額が大きいなら「一般課税」を選択
設備投資や新しい建物を購入予定があるなど、投資額が大きい場合は「一般課税」がおすすめです。
例として、製造業における消費税額を計算してみます。年間の「課税売上高:3,000万円、課税仕入額:1,200万円」とした場合の計算式は、以下の通りです。
- 一般課税【(3,000万円×10%)–(1,200万円×10%)=180万円】
- 簡易課税【300万円–(300万円×70%)=90万円】
とくに大きな投資がなければ、簡易課税を選んだ方が納税額が少なくなります。また「設備投資:1,000万円」をおこなった場合は、以下の通りです。
【一般課税】(3,000万円×10%)–【(1,200万円+1,000万円)×10%】=80万円
一般課税だと消費税額が80万円となり、簡易課税で計算した際の90万円を下回る結果になります。
設備投資の金額に応じて納税額が変動するため、事前に予算を踏まえたうえで、どちらを選択するか検討しましょう。
インボイス制度を活用して納税の負担を軽減しよう
この記事では「簡易課税制度に及ぼす影響や一般課税と簡易課税の選び方」を紹介しました。
インボイス制度が導入されたあとも簡易課税制度は存続するため、仕入率による計算が可能です。
一般課税は実際の仕入額に基づく正確な計算ができ、簡易課税は事務負担の軽減につながります。
とくに納税の負担を軽減したい中小事業者は、この記事を参考にして自社に適した課税方式を選択してみてください。